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平安書物に見る紫
2020年9月10日
紫色は平安時代の貴族たちの間でも好まれたようで、この時代を代表する書物にも
多くの用例が描かれています。
古今和歌集
紫のひともとゆへに むさし野の 草はみながらあはれとぞみる(詠み人不明)
これは愛する人を紫草に例えて詠まれた歌で、愛しい一人の人を想えば、
その人に関わる全ての人達も愛おしく思えるという意味になります。
また、紫の根を和紙に包んでおくと和紙に色が移るので、自分の色を想う人に
移して染めたいという思いもあったとされます。
愛する人を一本の紫草に例える感性の豊かさや、紫色に込めた想いの大きさに、
畏敬の念すら覚えます。
源氏物語
作者 紫式部の名に紫が入っているのはもちろん、紫の上や藤壺など、
主要な登場人物に紫を連想させる名前がついていることから、「紫の物語」と
呼ばれる事もあります。
文章中でも、例えば光源氏が紫の上に葡萄染の小袿を与えている場面など、
色についての描写が大変細かく、光源氏を軸とした登場人物の関係性が
色で表現されていることに新鮮な驚きがあります。
枕草子
清少納言による「枕草子」にも紫が多く登場します。
春はあけぼの。
やうやう白くなり行く、山ぎは少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。
訳:春は曙がいい。次第に白んでいくと、山際の空が少し明るくなって、
紫がかった雲が細くたなびいているのがいい。
大納言殿の参りたまへるなりけり。御直衣(なほし)、指貫(さしぬき)の紫の色、
雪にはえていみじうをかし。(第百八十四段:宮に初めて参りたるころから抜粋)
訳: しかし、それは関白殿ではなく大納言殿(藤原伊周)が参上されたのだった。
着ていらっしゃる御直衣や指貫の紫の色が、白い雪に映えてとても美しい。
この他にも、「花も糸も紙もすべて、なにもなにも、むらさきなるものはめでたくこそあれ。」と
紫のものは全て美しいとさえ表現しています。
平安貴族たちにとって紫は、色以上に大切な存在だったようです。